手背に触れた唇の熱さが総ての感覚器を起こしていく。














これは常々思っていたことだが、シンドバッドという人物との性行為において大半を占めるもの…まあ簡潔に言ってしまえば愛撫と呼ばれるソレ。前戯でもペッティングでも名前は何でも良いのだが、つまりはソレについてアリババ・サルージャという少年は日々頭を悩ませていた。別段嫌である訳でもないし、むしろそうした行為を疎かにせず施してくれる相手には一段別に同じ男として尊敬する部分もある。…だがしかしやはり恥ずかしいものは恥ずかしく、本番へ至るまでの段階で既に心身共に溶かされてしまうことに対しての複雑な思いもある訳で。前戯をおざなりにして貰いたい訳でも、そうした相手の心遣いを無駄にしたい訳でもないアリババにとって、如何にシンドバッドの心を汲み取りつつ妥協点を見付けるか…この問題は非常に重要なことであった。


そうして今日も今日とて手背に唇を落とされ、ゆっくりと服を乱されていく自分がいる。異性との性経験が無いアリババは、それこそあらゆる全てにおいてこういった進行をシンドバッドに委ねるしかない。初めの頃に気付かない内に脱がされた衣服にアリババが驚き慌てふためいたことから、シンドバッドはアリババが認識出来る下でゆっくりと服に手を掛けるようになった。それはアリババが意識の下安心出来るようにといった気遣いなのかもしれないが、いざそうした対応を取られた場合より行為への姿勢を正し臨まなければならない状況になるため、アリババにとっては決して諸手を挙げての感謝を述べられるものでは無い。実際問題アリババが怯えないよう痛くないよう施されるあらゆるものはアリババの意識下のものであり、つまりアリババ自身選択や思考の余地がある分ツラいものがあるのだ。シンドバッドの詳しい考えこそ分かりはしないが、好意や厚意からくるのであろうそうした対応についてまさか異を唱える訳にもいかず。つまりは羞恥や何やとあらゆるない交ぜになった感情との戦いとなる訳で、未だにアリババはそうした感情との折り合いを見付けられずにいた。そしてそんなぐるぐると渦巻く感情を抱えての行為に至る現状に、何だか無性に泣きたくなるアリババであった。




「シ、ンドバッドさん」
「うん?」


先ずは額に口付けられ、そこから眉間、目蓋、鼻、頬、そして唇へと順に移動していく。触れるだけの簡単なキスにほわりとアリババの熱が上がる。恥ずかしさから思わず零れる声にシンドバッドは薄く笑って応えはするが、唇を押し付ける行為が止まることはない。


やがて頸部へと下りてきた唇は一度柔く上皮を食んでから、少し強めに其処に吸い付いた。ピリッと小さく走った痛痒感に震えるアリババの髪を軽く梳きつつ、シンドバッドは数度それを繰り返す。


「っ、ん」
「此処だと見えるかもね」


吐息と共に音を吐き出すアリババを見下ろしながら、シンドバッドはゆるゆると赤いキスマークを辿る。戯れにそこに触れながら笑む男…その口から告げられた言葉にアリババは情けなく眉を下げた。


「えッ…こ、困ります!」
「そうだね、どうしようか」


日頃身に着けている衣服の緩さはシンドバッドもよく知っているはずで、だからこそ今まで人の目に付く場所にキスマークなど落とされたことは無かった。だというのにこれはどうしたことか。狼狽するアリババに対しどこか意地悪気に笑い続けるシンドバッド。様々な点において大人としての経験をみせてくれるシンドバッドではあるが、たまにこうして試して反応を窺うような行動をすることがある。アリババはその度にどうするべきかと右往左往するのだが、そうした素直な反応こそ最もシンドバッドの望む所であるのだという事実については、きっと当分知ることなど無いのだろう。


「明日も修行があるんですけど…」


師匠に見付かったら何て言われるか。想像するに難くない未来に想いを馳せてげんなりとする。アリババのもの慣れなさを把握している一人であるシャルルカンは、きっとそれこそあらゆる仮説のもと問い質してくるに違いない。…だが実際にはシンドバッドとアリババの関係を知る一人である彼は、アリババの行為からくる不調やマーキングを見ても知らぬ存ぜぬ気付いていないの姿勢を通している。もし修行に差し障りがある場合の献言、進言先はアリババではなくシンドバッド一択だ。それはひとえに弟子を大切に想うシャルルカンの優しさであるのだが、それを知らないアリババにとっていの一番に首を突っ込んできそうな対象であるシャルルカンはある種の脅威であった。どうしようとうんうん唸るアリババの顎をシンドバッドの手が捕らえ、固定したのは直ぐだった。そうしてそのままアリババの唇は塞がれ、閉ざされた呼吸経路が微細な振動を奥から発した。


「ッ、ンン…ん、ぅ」
「…最中に他の男の名を出すのはあまり感心しないな」
「ふ、ぁ…ぁ、…ごめんなさい」


スルリと頬を撫でられ身体の奥が震えた。荒くなった呼吸を落ち着けようとするアリババの努力の端で、シンドバッドは軽く鎖骨に噛み付いてから肩峰へとその唇を滑らせた。滑らかな曲線を堪能するように動くシンドバッドの唇は熱を持ち、じわりじわりと神経までをも焼くように蝕みを繰り返す。やがて腋窩に対象が移ったのだが、そこをべろりと一舐めされた瞬間アリババの身体は跳ね上がった。


「ッ、ひ!?…ちょ、ゃ、シ、シンドバッドさ、」


其処は駄目だと首を振るアリババを置いて、先ほどよりも広範囲に唾液を染み込ませるシンドバッド。日に焼けぬ白い皮膚をじっとりと舐め続け、やがて水分過多なその場所から小さな水音まで立つ始末。そんな現状に思考を絡ませたままアリババは死にそうな声を上げた。


「ぃ、ひっ、ゃ…やです、いやですって…ぁッ、っうぁ!」
「ん、少ししょっぱいな」
「ッッ、!!」


敏感な薄い場所を延々となぶった末にぽつりとシンドバッドが零したその言葉。それはアリババの羞恥心の針を振り切るのに充分な力を持っていた。


「ぁ、っ、ぅ、」
「…アリババくん?」
「ぅ、うぅ……ッゃ、やだって言った、のに…」


ぼたぼたとアリババの瞳から涙が落ちる。目を見開いたままキツく眉を寄せ、そうして涙を零すアリババにシンドバッドがギョッと肩を揺らした。


「ア、アリババくん」
「ひ、ぅ…ぅうっ…しんどばっどさんのばかあああ…っ」
「………」


目や頬…顔中真っ赤にしながら泣き喚くアリババに年甲斐もなくおろおろするシンドバッドだが、仕方ないと一つ息を吐いてから目の前の肢体を抱き締めた。


「本当にすまない。もうしないから泣き止んでくれ」
「ぅ、ぅ、」
「俺が考え無しだった」


これ以上泣くと瞳が溶けてしまいそうだ。
ごめんと額に唇を落とすシンドバッドの行動によって、アリババは少しずつ落ち着きを取り戻していった。ぐしぐしと泣き濡れた顔を、シンドバッドが優しく拭っていく。


「ほ、ほんとにもうしないで下さいね」
「ああしないよ。するとしてもアリババくんの許可を取ってからに…」
「ッそ、そんな許可出しませんから!」
「そうか、それは残念だな」


楽しみが一つ減ってしまったなぁと笑う相手にアリババはむむむと唇を引き結んだ。実は全く反省していないのではなかろうかこの人は。それにそんな風に言われてしまうと、まるで狭量だ子どもだと言われているような気がしてならない。それに拗ねてぷいっと顔を背けてしまったアリババの姿にまた笑ったシンドバッドは、汗ばむ金糸をまたゆっくりと梳いた。しばらくそうした時間が続き、やがて根負けしたアリババが自らの唇で相手のそれを塞ぐまであとほんの数分ばかり。






***




えへい、これはどうしたことか。

ええっと先ずは椎野さん、この度はリクエストをありがとうございましたああああ!!(土下座)
お茶会にて素敵なリクエストを承ったにも関わらず、おかしな作品になってしまい…アッーすみません!!そもそもエロリクエストだというのにまともなエロがないですね!なんてことだ!すみません!!

ああああもう誠に意味不明な着地点を見失った代物になってしまったんですが、よよよ宜しければ受け取ってやって下さい。あ、勿論苦情は四六時中受け付けておりますので!はい!

あ、あ、そしてあまりに酷いのでおまけみたいなそんなアレを付けてみました。エロです(実に品が無い)
とは言っても温い上にやっぱり残念な仕上がりになってしまったんですが、宜しければこちらも!どうぞ!

(おまけ)

それではリクエストをありがとうございました!!


(針山うみこ)